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interview|場をつくること

「jipenquo」 デザイナー 栗又崇信・栗又貴美
「evam eva」 デザイナー 近藤尚子

2007年にオープンしたevam eva自由が丘店をはじめとして、店舗の内装デザインをお願いしているデザイナーの栗又崇信さん、貴美さん(jipenquo)のお店に伺い、お二人の場づくりやデザインについてお話を伺いました。聞き手は、evam evaデザイナーの近藤尚子です。

jipenquoさんとの出会い

尚子さん:jipenquoさんとは、自由が丘店の内装デザインからご一緒しています。当初は自主製作の家具や古物を取り扱うアンティークショップという面が強かったと思うのですが、徐々に内装デザインにも幅を広げられて、製作物もデザインされる内装にあったものをつくるスタイルに変わっていかれた印象があります。

貴美さん:そうですね。自分たちが格好いいなと思ったアンティーク家具を売るところから始め、その過程でオーダー家具の依頼をいただいて製作をしていました。手狭になったのでこのお店に移り、それから内装もやり始めました。evam evaさんにお話をいただいた時はいくつかの案件をやっていただけだったので、よく頼んでいただけたなと。

崇信さん:3店舗目の自由が丘店という、これから本格的にお店づくりをしていく段階でもあるのに、すごい冒険をしていただけました。

尚子さん:雑誌に掲載されていた記事を見つけ、お店に伺ったのが始まりだったと記憶しています。今もそうだと思うのですが、所謂「お店」っぽさのある店構えではなかったし、店内もお店というか工房のような雰囲気でした。勝手に敷居の高い、ピリッとした感じかなと想像していたのですが、作業で手を真っ黒にした貴美さんに「どうぞ、気軽に見ていってください」と、明るく声をかけていただいたのが印象的でした。

貴美さん:最初にいらしてからも何度かご主人と一緒に足を運んでいただいて、そこから自由が丘店のお話をいただきましたよね。

尚子さん:自由が丘店は、街の中心に近い立地の良さはあるのですが、もともとペットグッズの店舗でガラス張りでした。その空間をどうお洋服屋さんに造り変えるか、ということでご相談しました。

貴美さん:自由が丘という土地にあって不自然にはしたくないけれど、evam eva「らしさ」は大切にしたいと尚子さんが仰っていて、そこにはすごく共感しました。お洋服を売るお店ではあるけれど、型にはまった空間にはしたくはないのだろうなと。

尚子さん:jipenquoさんのお店も、もともとここで生活されていたこともあって、お二人の暮らしに招き入れてくれるような雰囲気がありますよね。物を売るためだけの空間ではないというか。それでいて、ここにある物たちがあるべき場所を見つけて活き活きとしていて。そういった「売ること」と「見せること」が両立している場は居心地がいいなと感じました。

崇信さん:そういっていただけて嬉しいです。evam evaさんでは、それぞれの物件に合わせて店舗ごとに違った内装をしています。自由が丘店をきっかけにして、evam evaの成長と共に自分たちも鍛えられたなと思います。

「らしさ」と移り変わり

貴美さん:evam evaさんは裾野の広さもあるけれど、コアなファンもいらっしゃいますよね。そういったファンの方は色々なお店に行ってみたいと思うだろうし、その場ごとに楽しんでもらいたい。お店を建てる土地や時期が違えば自然と気持ちも変わっていくはずなのに、一つの型に当てはめてしまうのも不自然のような気がしていて… 全部のお店が違うということで、逆にevam eva「らしさ」がでるのではないかとも思っています。

尚子さん:多店舗展開をしていく場合、どこかパッケージ化されている方が、どこにあっても見つけてもらえるというメリットもあります。でもそれでは、自分たちのやる仕事としては面白くないですよね。新しいことに挑戦できる自由さを楽しんでいきたいと思っているので、毎回新しい店舗ができるたびにわくわくした気持ちになれます。

貴美さん:山梨の什器はそれこそ1点1点がスペシャルでした。「味」の白木の家具では静謐な居心地の良さを。「色」では、贅沢で面白みのある雰囲気を。そしてすべてにevam evaのおもてなしの気持ちが反映できるよう時間をかけてデザインしました。訪れた人だけが感じられる特別感を、見た目の美しさだけでなくお客様がふと目をやったその瞬間も楽しんでいただけるよう細部まで気を配ることで表現いたしました。

崇信さん:一番新しい表参道ヒルズでは、evam evaとは全く関係のないマテリアルを意図的に使って構成しました。そういった冒険は続けていってますよね。中でも印象に残っているのは京都店で、いろいろな挑戦をさせてもらいました。

貴美さん:京都という立地がイメージしやすかったです。外観はガラス面を小さくして、店内を暗くしました。そうしたことで店内に差し込む光の陰影が綺麗に仕上げられたと思っています。入口のサインは、門をくぐって入っていく感覚を感じてもらえるようにしました。

尚子さん:ロゴを縦に配置しているのは京都店だけですね。店内のフィッティングルームへと向かう天井に吊るした照明も印象的です。細い竹がつらつらっとあってその内側から照明が光っていて。最初にラフを拝見した時はどのような構造になるのか想像ができずにいましたが、実際に一部分を店舗内に作ってくださって納得できました。

貴美さん:京都店の内装を考えている頃、山梨店のお話もいただいていた時期で、山梨の土地でみた竹林から漏れる光が綺麗だなと思ってデザインしました。

尚子さん:人の目につきやすいインテリアは、ともすればその移り変わりもはやくなるのかなと思う時があります。jipenquoさんにご相談する際も、その時々のトレンドは把握されていますよね。トレンドについてはどのように捉えられているのでしょうか。

貴美さん:流行を決して追いたいとは思わないけれど、気持ちのままに「流れてしまえ」と思っている部分があって、変化を恐れていない面があります。その意味では、端から見るとその移ろいがはやいように感じられるかもしれません。昔はインテリアといえば専門店ばかりで、ファッションのような自由さはありませんでした。私たちは二人でやっているので自由に流れていける。流れているからこそ、自分たちを表現できるような気もします。

崇信さん:流れながら姿かたちを変えていっていることに本質があると思っています。不易流行とでも言えるでしょうか。何か一つの固定したスタイルに固執したことはなく、どこかに留まっているという感覚はありません。それは、evam evaさんにも似たような部分があるように思います。

貴美さん:evam evaさんにも旬のようなものがありますよね。でもそれはファッションのトレンドというより、私たちの暮らしの中にもある移ろいに近いものだなと感じます。

デザインと解釈

尚子さん:そうですね。私自身もトレンドを追うよりは、その時々での自分の気分や感覚の方を大事にしています。evam evaでは毎シーズンのテーマとなる言葉を用意しているのですが、それは今の自分が気になっていることは何だろう、なぜ気になっているんだろうと自分と向き合うことで生まれます。一方で、jipenquoさんはクライアントの要望と向き合うという面もありますよね。その辺りはいかがでしょうか。

貴美さん:クライアントの要望も含め、内装を考える上では、物件のかたちやその周辺環境など様々な条件があります。それらを言葉通り、かたち通りに受け取るのではなく、自分たちなりに「ばらしていく」ということをします。

崇信さん:確かに、クライアントの要望を言葉通りには聞かず、その裏にあるものを理解しようとしています。

貴美さん:そのためにはクライアントの要望を丁寧に聞くことを心がけていて、その上で言葉になっていない部分を汲み取りたい。そうやって改めて解釈して、包み直す。その部分に自分たち「らしさ」が出ているような気がします。

崇信さん:竹内好の「西洋をもう一度東洋によって包み直す」という言葉に近いでしょうか。「包み直す」というのは、自分たちのデザインにしっくりくる感覚があります。

尚子さん:「jipenquo」という名前にも、西洋と東洋という視点での意味合いが込められていましたよね。

崇信さん:そうですね。マルコ・ポーロの「ジパング」から来ているのですが、それは「西洋人からみた東洋人」であり、客観的な日本のインテリアというのを意識してこの名前にしました。

貴美さん:「日本っぽさ」を売りにしたいわけではないのですが、考え方などはどうしても「日本人」らしさがでていると思います。明治期の工芸品などを見てみると、外から来たものを一度消化してから改めて捉え直すということをやっていますね。その部分は大切にしたいなと思っています。

尚子さん:jipenquoさんのお仕事には共通してそういった部分がありますよね。最近では海外からの家具の注文も増えてきて、国内では住宅のお仕事もはじめられたとか。

貴美さん:クライアントの要望も含め、内装を考える上では、物件のかたちやその周辺環境など様々な条件があります。それらを言葉通り、かたち通りに受け取るのではなく、自分たちなりに「ばらしていく」ということをします。

崇信さん:住宅は内装よりも機能面が求められるところがあるのですが、よりクライアントのパーソナルな部分があって面白いです。

貴美さん:これからはオーダー家具だけでなく、自分たち発信の作品づくりとして家具製作もやっていきたいなと思っています。それが海外にも届いていったらなと。

尚子さん:ここの本棚には寺山修司の作品集があり、ホームページにも言葉を引用されていますよね。様々なことを手掛けているけど、そのすべてに寺山修司「らしさ」があるところは、jipenquoさんと繋がる部分があるなと。手にするものが何であろうと「jipenquo」という形になって、ものや空間がつくられているように思います。デザインの背景にある物語は言葉でなくては明確に伝わらないけれど、それによってデザインされたものには「らしさ」があって、語らずとも伝わるものがありますね。そういう意味では手放すということも大切な気がします。

貴美さん:そうですね。そういうふうになれたらいいなと思います。

お二人にご着用いただいたのは、毎冬展開しているカシミヤニット。シーズンテーマに合わせたオリジナルカラーに染めています。

崇信さん| E213K136 turtleneck ¥40,700
繊維を傷めないように低温でゆっくりと染められたカシミヤ100%のタートルニット。グレージュの色合いからカシミヤ本来の柔らかさが伝わります。
「袖を通した瞬間の心地良さが印象的で、一日を気持ちよく過ごせそうです。着ている間もとても軽やかです。」

貴美さん|E213K133 robe ¥52,800
衿、袖、裾はすっきりと軽やかに仕立てたローブ。褐色がかったグレーが上品な印象に見せます。
「シャツの上からでも伝わるカシミアの柔らかく包み込むような着心地に改めて感動しました。微妙な色合いもたいへん気に入っています。 」

尚子さん|E213K040 poncho ¥26,400, E213K042 pants ¥ 27,500
なめらかで軽い着心地のウールで編み立てたポンチョとパンツを合わせたニットスタイル。

[デザイナー]栗又崇信・栗又貴美(jipenquo)
2000年、アンティーク家具店「KOUSEI WERKSTATT」をはじめる。日本をメインにアンティーク家具や食器、オリジナル家具を扱い、さらに店舗や住宅の内装デザインも手掛ける。2015年11月に店名を「jipenquo」に改名。
website|jipenquo.jp
instagram|jipenquo

photographer:山本あゆみ

© kondo knit co.,ltd.