「foodremedies」菓子研究家 長田佳子
「smbetsmb」アートディレクター 新保慶太・新保美沙子
「evam eva」 デザイナー 近藤尚子
2021年6月の心地よい梅雨の晴れ間、ものづくりに関わる4人がevam eva yamanashiに集いました。
今年4月にevam eva yamanashiにて開催したイベントでご協力いただいた菓子研究家の長田佳子さん(foodremedies)、昨年のevam eva website リニューアルからご一緒しているアートディレクターの新保慶太さん、新保美沙子さん(smbetsmb)をお招きし、evam eva デザイナーの近藤尚子を交えてのインタビュー。
テーマは、「はじめること、つづけること」。
ひとつのことを淡々と続け、ものづくりに関わってきた方々に、そのはじまりのきっかけやこれまでの道のりについてお話いただきました。
はじめるきっかけ
―みなさんが今のお仕事をはじめられたきっかけを教えてください
尚子さん:はじめは花が好きという理由で園芸会社に入社しましたが、輸出入業務に携わることとなり花に触れることのない日々でした。私にとっての花と消費の関係性に違和感を感じていたこともあり、実家で仕事をしようと山梨に戻ってきたのがきっかけです。はじめは現場に入り、研修に行って技術を学び、工場で修行をすることからはじめました。
そのころはつくったものがどこでどんなふうに人の手に渡り、着る人の顔もわからず、誰かのもとへ届けられたという実感があまり感じられませんでした。そうした中で上質な素材で心地よいシンプルな洋服をつくりたいという思いから、自社で企画・販売をする自社ブランドの立ち上げに行き着き、2001年にevam evaがスタートしました。
佳子さん:私も組織の中でお菓子作りをしていたのですが、日々の中で自分がなくなっていくというか、どこか混沌とした中で仕事をしている感覚がありました。そこで、一度自分のやりたいことを整理したいと思い、フリーになってお菓子作りをはじめました。最初は友人のお店に置かせてもらうところからスタートしたのですが、そこから徐々に人との繋がりができて、山道を登っていくように自分の道を進んでこれているような気がします。
慶太さん:2011年に2人で独立しました。仕事に限りませんが、自分たちのしていることに責任を負う必要をずっと感じていました。プロセスや結果が定型・効率化された仕事では自分たちの目が行き届かないことがあります。未知の仕事に臨むくらいの気持ちで、はじめから考え、可能な限り行き渡らせる必要を感じています。そのために自分たちで選択ができる環境をつくりたいという考えが、おふたりと同じようにありました。
手を動かすことと考えること
―ものづくりをする上で、現場を知ることの意味は実感としてあるでしょうか
尚子さん:evam evaのものづくりでも、自分たちでつくっているからこそわかることを大事にしています。自社で企画をし、デザインを内製化することで、製造の現場と一体になって自分たちで循環する仕組みができてきたと思います。
美沙子さん:クライアントの仕事の現場を知ることは、それを伝える立場にある私たちにとって、とても重要なことです。昨年、クライアントである酒米農家さんのところで佳子さんと一緒に田植えをお手伝いさせていただきました。佳子さんにプロジェクトに関わってもらいたいと考える中で、生産の現場を知っていただくことがまず大切であると思ったからです。
佳子さん:お菓子作りに使う素材の奥には、それぞれ生産者の方がいて、その方たちの顔が見えることは大切だと感じています。一つ一つの素材が自分ごとになっていくというか。今年から山梨に移住をしたのですが、自分の畑を持ち素材をつくるということもはじめました。はじめの数カ月はあれもやならなきゃ、これもやらなきゃと手を動かすことで精一杯でしたが、作物の成長とともにこの素材をどう生かそうかといったことを考えることができるようになってきました。
慶太さん:はじめのうちは慣れることに一生懸命で、手を動かすだけでいっぱいになってしまいますが、自然と手を使って考えることができるようになりますよね。手を動かすことで“感じながら考える”ことにつながると思います。
尚子さん:確かに、現場とのコミュニケーションでは、「考えることを奪わない」ことを意識するようにしています。企画をする立場では、できること、できないことを加味して考えるということをしてしまいがちですが、それでは変化が生まれづらい。現場にできないと言われることを、どうできるように考えてもらうか、そういったコミュニケーションをとるように心がけています。
尚子さん:佳子さんと初めてお会いしたのは、数年前の夏至の日だったと記憶しています。慶太さんと美沙子さんが佳子さんを誘って、evam eva yamanashiを訪ねてくださったんですよね。あれからそんなに経っていませんが、まさか山梨に移住されるとは驚きました。きっかけは?
佳子さん:菓子研究家として独立してから、幸いに生産者と出会うことが多くなり、さきほどお伝えしたように、よい循環が少しずつうまれるようになりました。一方で、都市に暮らし、彼方此方から素材を提供してもらえる環境の良さと何でも揃ってしまうことに、距離を置きたいという感覚が芽生えて、数年前から2拠点なのか移住なのかを考えるなかで、今年の春に、ついに行動できました。土づくりも考え方が人それぞれに多様で、いまは学ぶ毎日です。
美沙子さん:昨年、佳子さんとふたりで旅をした時に、それぞれの仕事において都市で暮らすことについて話をしました。地域に暮らすことによって培われる生き方があり、一方で、佳子さんに生産した作物を託し、新たなものになって還ってくるプロセスに、生産者からの喜びの声を耳にします。都市で暮らし素材を取り寄せることに、佳子さん自身が必要以上に罪悪感を抱えなくてもよいのではないかと、都市で暮らすことも地域で暮らすことも肯定した記憶があります。今、佳子さんの新しい試みのお手伝いをさせていただいてます。対面で行っていた菓子教室を動画配信で行いたいという相談の流れから、佳子さんたちの畑で収穫を手伝い、道端の桑の実を味見し、樹によって味わいが異なることを体験しました。畑を耕す実体験がレシピに反映されるさまは瑞々しく目に写りました。菓子研究家をつづけていくために、土地に暮らすということを今、大切に考えているのだなと感じました。
慶太さん:20代の頃、手動の活版印刷機を使って自主制作をしていたのですが、独立後に、縁あって自動機の活版印刷機を譲っていただきました。その時に現役の印刷士から印刷の技術的なことを教えていただきました。調色の仕方はもちろん、紙に定着させる難しさ、そういった実践から思い通りにいかないことを知った上で、印刷の現場に入ると、どのように伝えたらよいのか言葉にしやすくなりました。佳子さんもこれまでも生産者とわたしたちをつなぐ伝え手であったと思いますが、これから各地にいる生産者と土や気候といった風土の話もできる研究家になっていくのではないかと思うと、互いに楽しみが増えるように思います。佳きつくり手は佳き伝え手になれることを実践してくようですよね。
尚子さん:たしかに。現場と同じ言葉を持つというのは、経験として強さになるかもしれません。私も現場でニットを編んでいた頃の記憶が、何かを決めなくてはいけないときの判断になっています。新しい試みや難題を解決してくときに、現場の苦労を知っているうえで、現場とせめぎ合えるかは、お互いの気持ちとしても違うように思います。そのうえで、それぞれの役割を担う者が一体となって、つくられたものへの自負が芽生えるのかもしれません。
想いをどう届けるか
―外に向けたコミュニケーションで意識されていることはありますか
美沙子さん:クライアントの考えを“どう”届けるかを常に意識しています。そのうえで、クライアントも私たちも「嘘をつかない」ことが一番大事だと考えています。そのためにクライアントとの対話を継続的に続け、今、“お互い”にどう考えているかを知る必要があります。
慶太さん:私たちはデザインで形にする必要がありますが、その前によく“聞く”ことが求められていると思います。“形にする力”と“聞く力”がバランスよく反映されたデザインは、対外的なコミュニケーションだけではなく内部のコミュニケーションにも広がりをもたらすものだと思います。
佳子さん:まずは自分のために、自分が機嫌よくいられることが大切だと思いお菓子作りをしています。全員に喜んでもらうことはとても難しいと覚悟しています。それもあって、自分がつくったものに対して、どこか「良いと思っているけど、良いとは言えない」というのがあります。
尚子さん:それはすごくわかります。できあがったものに対して、これで完璧ということもないし、自分でつくっているからこそ、自分で売れないというところがあります。なので販売に関しては、店舗スタッフに前に出てもらい、彼女たちに自分の想いを伝えるようにしています。
美沙子さん:自身のお仕事に対する慎ましさがおふたりに共通するところですよね。このインタビューも、ただ製品の良さを発信するためではなく、全体の空気を含めてevam evaの輪郭が時間をかけて現れてくるものになれば良いなと思って提案しました。
尚子さん:evam eva、そしてevam eva yamanashiのwebsiteのヴィジュアルにも、私の地元にある四尾連湖を撮り下ろしていただきました。やはり言葉では伝えきれない部分や、言葉にしてしまうと通り過ぎてしまう部分があります。対話を重ねる中で、そういったところも含めて理解し、デザインしていただけているなという実感があります。
続けることとこれから
―みなさんにとって続けることとその先についてお聞かせください
尚子さん:経営は歩みを続けることだと思います。私の場合は大きな目標を持つというよりは、小さな道標を目指して進みながら、到達しそうな時にはまた次のどこかを見据えているような感覚で歩んできました。具体的な目標は社長である夫が立てているので、それぞれの考えの中で変わらない一貫性を大事にしつつ、変わっていくことを寛容に受け止めながら続けていけたらと思っています。
慶太さん:いつもはじまりのような新鮮さは大事にしたいと思っています。結論を急ぐのではなく、わからないことはわからないままにしておくことも大切です。理解するために、対話が生まれ続けること、常に相手の変化に耳を傾けておくことで、新鮮な関係性が続くのではないかと思います。
美沙子さん:その時点での答えをださなければならないこともあります。そこに、答えを出す怖さがあると同時に、決める責任も感じます。一番緊張しているのはクライアントであることを常に念頭に置き、ともに歩み続けられればと思います。
佳子さん:私は環境を変えたばかりなので、ひとまず2年は自分の引き出しを整理しつつ増やすという意味で山梨での暮らしの可能性を探ろうと思っています。先行きがわからない手探り状態の中で、多くの変化を受け入れられたらなと。
尚子さん:仕事と生活は切っても切り離せないなと思います。私は特殊な環境で生活と仕事の境目がない暮らしを続けてきていますが、社員にとっても仕事は一日の大半を占めるものです。だからこそ、evam evaでの仕事によって、生活の他の部分に良い影響が出るようになって欲しい。仕事をする中で、気持ちよく一日が終われる日もあれば、そうじゃない日もあります。でもより多くの日が、仕事終わりにほっと息をつけるような日であって欲しいなと思っています。
美沙子さん:尚子さんはいつも誰かのことを考えていらっしゃいますよね。相手が気持ちよく、健やかにいられるようにいつも穏やかであるというか。それが受け皿になって、お互いに与え、与えられ続けるような佳い仕事のできる環境づくりができているのだと感じました。
今回のドレスコードはモノクローム。2021 evam eva 春夏コレクションより着用いただきました。軽やかでしなやかなモノクロの装いは、やわらかくも凛とした佇まい。身に纏う人、それぞれの魅力を引き立たせてくれます。
佳子さん|E211T023 dress ¥47,300
細かな織柄が凹凸をつくり、さらりとした肌触り。シンプルでありながら、細やかなディテールやドレープで上品な印象。
「適度な重さがきれいなドレープをつくってくれて、表情がうまれますね。色合いも真っ白ではなくて柔らかな白は表情をあかるく見せてくれますね」
慶太さん|E211K166 pullover ¥19,800
スーピマコットンの毛羽を抑え、更に超強撚をした糸で編み立てています。さらりとした軽い着心地で涼やかです。
「生地のシャリ感が夏場でも肌に心地よいですね」
美沙子さん|E211T087 one-piece ¥38,500
水分の吸放湿性に優れ肌にやさしく、またそのまま土に還る環境にも優しいキュプラで仕立てたワンピース。光沢のある糸とコットンの質感に似た糸を配織して、繊細な艶のある生地に仕上げています。しなやかに落ちるドレープが上品さ漂う装い。
「Vネックのドレスを初めて着させていただきました。しっとりした質感が気持ちよく、胸元からのドレープがしなやかに見せてくれるように思います。生地の特性を伺い、evam evaの服づくりにさらに感心が湧きました」
尚子さん|E211T122 poncho ¥26,400
強撚したリネンの糸で織られた大判のポンチョを着用。光が透けて墨色も軽やかです。