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column|くうのいろ

ブランド設立から25年の節目となる今年。特別なアニバーサリーイベント 「くうのいろ」を開催します。
テーマは「景色を纏う」。日々の暮らしの中で、そのときにしか出会えない自然が織りなす色の重なりは、儚くも美しいものです。その色を纏い、季節の風を全身で受け止めるときに、確かな生きているという真実を、深く豊かに感じられます。たとえ手の中は空っぽでも、心が受け取り溢れる、その何にも代えがたい喜びを、服という形にしてお届けしたいという思いは、これまでも、これからも変わらずに、私たちのものづくりの根幹であり続けます。

このイベントでは、私たちの身のまわりにある植物から色を掬い、染めた botanical dyeや、重なり合う山並みと、そこに織りなされる光のグラデーションを染めで表現したコレクションが並びます。朝には靄に包まれた山々が徐々に姿を現し、日がしずみ、山の稜線が宵に滲んでゆく。移ろいゆく山、空、光の情景を布に映しとったグラデーション染めもまた、無常の美しさを宿しています。

陰影を纏う

evam eva が表現する柔らかくも奥深い色合いは、四季とともに移り変わる景色に身を置き、日々の暮らしを重ねる中で出会う風景から生まれています。燦々ときらめく真夏の光は、まばゆいほどの輝きを放ちながら、私たちの感性を優しく包み込みます。色とりどりに色づき実り、深まりゆく秋の情景は、静かな感動を私たちの心に届けてくれます。静謐で澄みきった冬の空は、凛とした空気とともに、清らかな美しさを見せてくれます。そして、少しずつほころび、新たな命が芽吹く春を迎える瞬間は、希望に満ちた喜びで満たされます。自然がみせる、この言葉では表現しきれない美しさを、私たちは色を通して伝え続けていきたいと考えています。

自然の色を映す

イベントで展開するbotanical dyeは、春から夏にかけて evam eva yamanashi の庭で育まれた4種の植物から色を抽出しました。
この地には、かつて養蚕農家が栄えた歴史が今なお色濃く息づいています。その大切な名残として深く根付いた桑の木は、庭にも自生しています。春になると豊かに葉が茂り、花が咲き、そして初夏には艶やかな実が熟していきます。その時季を待ち、桑の実を採取していきました。石畳の門をくぐり、歩みを進めていくと、逞しく群生する蕗が現れます。その瑞々しい茎は、レストランで新鮮な食材として料理し、残った葉の部分を染めの材料として大切に活用しました。また、庭に広がる竹林の手入れのために伐採された竹の枝と笹でも、新たな試みとして染色を行うことにしました。そして、昨年の3月に私たち自身の手で種をまき、畑に植え替え、日々の手入れを重ねながら 成長した藍の生葉。これらの植物から色を抽出し、天然と化学を融合した新たな染色技術によって染めを施しました。

従来の草木染めでは、紫外線や洗濯によって変色してしまうという経験をお持ちの方も少なくないと思います。既製服としてお客様の手元に届いてからも不安なく着用していただくため、植物で染めながらも安定した染色方法はないかと考えていたところ、ボタニカルダイという手法に取り組んでいる会社、シオンテックに出会いました。シオンテックでは、安心して草木の色を楽しんでいただきたいという強い思いから、鉄やアルミ、銅などの媒染剤によって色を定着させるのではなく、現代の化学の力を活用することで、植物の色素を繊維に定着させることが可能になりました。 この技術により、従来の課題であった色落ちを大幅に抑えながら、自然本来の色彩豊かな植物染めを実現できました。お取引当初より担当してくださる代表の高橋さんに、植物から色を抽出する方法や染めについてお話を伺いました。

ひとつの植物にも、花びらや実、葉、枝、樹皮、根などに、豊かな色をひそかに宿していることに気付かされます。太陽の光をいっぱいに吸って、若く青い実は少しずつ鮮やかな赤へと変わり、熟してきて深い紫漆になって黒へと変化し、最後には柔らかな茶色になって静かに消えていく。植物が育つ中で生まれる色から、赤く色づく紅葉や桜の葉、黄金色に輝く銀杏の葉など、四季の移り変わりとともに変化していく色もあります。私たちの目に見えている色は、植物自体が持っている色素が日々変化しているということ。そのどの色に染めるかで適した部位と採取時期を見極め、それぞれの植物の良さを引き出しながらシオンテックで抽出される色は、驚くほどカラーバリエーションが豊富です。

基本的には、植物本来の色素を引き出すために煮出して色を抽出していきます。 シンプルに煮るだけでよいものもあれば、成分を効果的に引き出すために砕いたり、潰したりしてから煮るものもあります。 また、植物の特性に応じて温度を細やかに調整する場合もあり、それぞれの植物にとって最適な抽出方法を見つけていきます。特にアクが出やすい蕗は、染める際の影響を考慮するため、煮出しの過程でアクを取り除く必要があります。また、青い色素であるインディゴを含む藍の生葉は、空気に触れることで酸化が進みやすく、一度酸化してしまうと染めにくくなってしまうため、採取から染色までの鮮度の管理が重要になるそうです。実際に服を染めるまでに何度も試験を重ね、データを取る作業を繰り返す作業場はまるでラボのようでした。依頼して受け取るだけでは決して知り得ない、膨大なデータの蓄積と長年の研究から得られた知見。そのすべてが生み出される色の中に息づいています。

ボタニカルダイは、草木と化学、どちらの要素も併せ持つため、より表面に豊かな光の乱反射が生まれ、独特な揺らぎのある色合いを実現しています。それは、まるで揺らめくキャンドルの温かな炎や、木々の間から差し込む柔らかな木漏れ日の光に心が癒されるように、自然と見る人の心に穏やかな安らぎを与えてくれるんです、そう話す高橋さんの表情もとても和やかでした。


2025 spring botanical dye collection

一見ふつう、でも肌で触れるほどにその心地よさを感じられる上質なコットン地で仕立てたプルオーバーとワンピース。随所に施されたギャザーやタックで現れる繊細な陰影が柔らかな光をうけ、植物染めでしかだせない奥深い色合いと趣が、自然の恵みと温もりを感じさせてくれます。目には見えないけれど、植物の豊かな記憶が色となって宿り、全身が包み守られているような、そんな感覚が芽生えてきます。

3月22日より、evam eva yamanashi 形では、企画展「くうのかたち」を開催いたします。

「かくの如く」を意味する evam eva 。この言葉に続く古い文章には、私たちの目に映る世界は実体を持たない「空」であり、むしろその「空」こそが真の実在であると綴られています。
夕暮れ時、美しく染まる空を見上げ、目の前に広がるこの景色は本当に存在しているのだろうか。見えるものと、見えないものの間にある境界線は、どこにあるのだろうか、そんな思いが心を巡ります。ものをつくるとき、土を大切に扱いながら形を作り、木の温もりを感じながら削り、心の中から自然と生まれてくる線を描きます。こうした創作の営みには、目には見えない祈りのような気持ちが込められているように感じます。山梨店ギャラリー「形」では多くの人がさまざまな作品と出会い、人とものとの間に繋がりが生まれてきました。こうした出会いの一つひとつが、私たちの心に温かな光を灯します。つくることは、祈りに似た行為なのかもしれません。
今回の企画展「くうのかたち」では、一見相反する「空」と「形」という言葉から、作家の方々に作品を制作していただきました。それぞれの内なる祈りが、手に触れられる形となって表現されています。

形あるすべてのものは常に変化し続け、私たちが目にする景色や手にする感触は、その時の流れの中の一瞬の表情です。だからこそ、その瞬間を心に留めることで、今という時がより深い意味を持つものとなるのでしょう。
私たちは、ものづくりの根底にある想いを大切に守りながらも、自然の摂理のように変化を受け入れながら、意義深い節目を迎え、次なる一歩を踏み出してまいります。

top画像 photographer: 本多康司

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