時を超えて紡がれる、風景と衣の対話
2025年に創業80年を迎えた近藤ニットの確かな技術と、evam evaの感性が育んだ25年。
その歩みを記念し、ブランド初のVisual Book『風光をまとう』を刊行いたします。
evam evaは、時代とともに、誠実な服づくりを続けてきました。ブランドが生まれた山梨の風景は、表情を変えながらも、その本質は揺らぐことなく、穏やかに広がっています。この風景が時を超えて息づくように、evam evaの服づくりもまた、変わらぬ想いを紡いでいきたいという願いが込められた一冊です。
月光と霧を纏う一冊
Visual Book『風光をまとう』は、 2020年から2024年にかけて撮影された四季折々の山梨の風景を、その膨大な写真の中から丹念に選びまとめた一冊。
本のカバーは、evam evaが選りすぐった布を纏い、淡い月光を宿す“白”と、たなびく霧のようにやわらかな“薄灰”の二色。活版で刻まれた凛としたタイトルは、指先に微かな痕跡を残します。風景の余韻を静かに映し出す特別な本に仕上がりました。
風土が映す色、衣に宿る余韻
糸を編むこと⸺それは、線から形を生み出すこと。
糸が交わり、形を成すとき、
そこに繊細な余韻が漂う。
編み目に織り込まれる柔らかさと強さ、
静かにさざめくリズム。
風の音、湖面の光、草木の囁きと響き合い、
ひとつの風景を織りなす。
糸を編むということ⸺
それは、未来を静かに、けれど力強く紡ぐこと。
2020年、オフィシャルサイトをリニューアルするにあたり、サイトイメージに山梨の風景を据えることにした。日々、ともにある風景からインスピレーションを受け、衣に宿らせる。evam evaの創作の原点となる、この景色を共有したいと考えた。
撮影の旅は、ブランドのものづくりの場とほど近く、evam evaにとってゆかりの深い場所、四尾連湖から始まった。四尾連湖はどの川とも繋がらず、湖底から湧く水と雨水だけで満たされている。その水源の特異性から、龍神が宿ると言い伝えられ、古くから信仰の場として人々に崇められてきた。干ばつの時ですら枯れることなく、常に水をたたえ、その神秘性は、かつて水が暮らしを支えたように、今では静寂が心を潤す場となっている。
日が昇る前に、四尾連湖のある蛾ヶ岳へと向かう。寝静まった村を車のライトが照らし、家々の輪郭は、まだはっきりと浮かび上がっていた。だが、背後から朝日が昇りはじめると、霧が静かに立ちこめ、やがて車はその白い帳に包まれる。ヘッドライトの光は霧に吸い込まれるように広がり、視界をかき消し、前へ進もうとするほど、霧が深く立ちはだかった。車を停め、村に降り立つ。ほんの少し前まで見えていたはずの家々は、すでに霧の中に消え、森すらも白い海の底に沈んでいった。
目の前に広がるこの灰色の情景に、ただただ圧倒された。
静けさの中に立ち尽くすと、風が通り抜け、霧がわずかに揺れる。
変わりゆく景色の一瞬一瞬が、まるで長い時間を紡いできたかのように感じられた。
evam evaのインスピレーションがこの風光にあると合点がいく瞬間でもあった。
瞼に残る風景の余韻が、いつしか色となり、やがて形となり、衣の中に息づく。
ひとすじの灰色は、深い霧のように優しく、また神秘の湖のように、心に静けさをもたらす。
この『風光をまとう』は、風土が織り成す色彩への礼賛。
そして、変わらぬ美しさを纏い続ける服への感謝。
四季が巡り、霧が晴れても、ここに映る美しさは失われない。
ページをめくるごとに、ブランドがそっと語る物語に、静かに耳を傾けていただけることを願って。

text, photography: 新保慶太+新保美沙子 (smbetsmb)
evam eva 25周年 記念出版
Visual Book「風光をまとう」
発行:近藤ニット株式会社
写真:本多康司
アートディレクション・デザイン・編集:新保慶太+新保美沙子(smbetsmb)
印刷・製本:株式会社八紘美術
仕様:上製本/クロスカバー:evam eva クロス (白・薄灰) /40ページ/サイズ210×265mm
発行日:2025年3月20日
価格:2,750円(税込)
取扱店舗:evam eva 全国店舗
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