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interview|shunshun|無数の線から浮かびあがる景色

素描家  shunshun

1本1本が積み重なり、無数の線となり浮かびあがる1つの作品。2024年11月23日よりevam eva yamanashi形にて素描家shunshunさんの個展 pranaを開催いたします。

瀬戸内海から少し陸地へはいり、赤い石州瓦の家並みが印象的な長閑な場所にあるご自宅。その2階にあるアトリエは白を基調とした空間に、大きなテーブルとスツール、所々に古道具が配され、やわらかな光がさしこむ場所でした。作品を作り出す線に纏わる話、本展にむけての想いを伺い、作品としても多く描かれている瀬戸内海のお気に入りの場所も訪ねました。

呼吸のように描く線

アトリエの部屋の扉を開けるとまず目に飛び込んでくるのは、多様な表情の線で描かれた作品たち。ゆらぎのあるやわらかな線、素早いタッチで描かれた勢いのある線、緻密に描きこまれた短い線。そのどれもがブルーブラックの1色でありながらも、異なった印象を与え、それぞれの線の息遣いが伝わり、絵に引き込まれていく感覚になります。

最初に、紙の端から端までつづく1本の線をゆっくりと描くところを拝見しました。その線はそれぞれが交わることなく、ほどよい余白と間を保ち心地よいゆらぎを備えます。

「線をアトリエで一人で引いている時は、すごく落ち着いていて、力を抜いて描いています。たくさん引いているうちに一番疲れなくて、気持ちがいいゆらぎが自然と出るような気がしていて。まっすぐに引こうと強く意識すると、力が入りすぎてしまって、引き続けるのが難しくなってしまうんです。自分がリラックスして、いつまでも引いていられるような、ヴァイオリンのビブラートのように多少の揺らいでいるほうが気持ちよいなと」
線を描くとき、全体をあまり意識せず描き進めていくというshunshunさん。

「その時の線に集中して、線を積み重ねることで全体が浮かび上がるという感覚なので、最終的にどうなるかはわからず、ゆだねながら描いています。きらきらしているところも、しっかり決めずに直感で空けています。何日もかけて描いて、それが積層されていくと自然と形となり、今回はこういう煌めきになったんだなと」

重なり合うことなく、一方方向から黙々と描かれた線の集まりはいつしか光を帯び、静かに波立つ海の景色として私たちの前に現れます。

「海には常にたくさんの波があって、波たちも自分がどうゆらいでいようか考えずに、唯々ゆらいでいて。その波に太陽光が反射して飛んできた光の粒子を僕たちは体全体で感じている。自分も波の一部となったような気持ちで描いていくことで、目で見た海というよりかは、身体の中にある海が出てきたらいいなと思っていて。だから、写真を見て描いたりはせずに感覚を頼りに描いています」

波動を記録する感覚で、描き続けるというshunshunさん。何も描いていない真っ白なキャンバスにはすでに光に満ちていて、線を描くことで影が生じ、はじめて光の存在に気づいてもらえたらと話してくださいました。

次に描いてくださったのは素早いストロークの線。線を描く音は機織り機のように、均一なリズムで心地よくアトリエ内に響きます。

「自分が風になったような気持ちで繰り返しています。最初は淡い線なのですが、ある程度まで下へいったら、最初に戻って重ねていくとだんだん線が濃くなっていく。繰りかえして描いていくと心が軽やかになってきて、いつの間にか線が増えてきたり、色々なトーンの青が見えてきて、変化していく様子をみるのが楽しみです。ちょっとブルーグレーだったり、紫や緑がかったり、色がゆれるような。手がだんだん擦れてきて、真っ青になってくるくらいずっと描き重ねています」

描くリズムは一定でありながらも、生まれる線は1本として同じものはありません。作為のない線であるからこそ、自然の風景を眺めているときと近い感覚を覚えます。

「この描き方はもっと細かく描いていて、*ハッチングのような描き方で、埋め尽くしたときに出てくる模様。真ん中の白い光を残してあげたいので、中心からはじめてじわじわと周りに広がっていくような描き方です。気の向くまま進めていくので、どこにどういいう濃淡が出るかわからず1枚ずつ変わっていきます」

「何も考えずにゆだねて描いた時にでてくる線は、不思議とずっと見ていられます。自然は人のために何かしてあげようとは思っていなくて。その気持ちに近づいて描けたらいいなと思っています。本物の自然にはかなわないので、ゴールとしては、海を見ているように感じるのがいい状態だなと、絵を見たときに海を見に行きたいなと思ったら、それが一番いいかな。そういうきっかけになれば嬉しいです」

*ハッチング 平行線を引き重ねていく技法のこと

素描家として

もともとは建築の仕事をされていたshunshunさん。ライフワークとして、スケッチブックとボールペンを携えて好きな場所を訪れた時にスケッチをすることを続けていました。2011年の東日本大震災を機に、自分が本当にやりたいことは絵を描くことと気づき、建築の仕事を辞め、奥様の故郷でもある広島へ移住されます。

当時の作品では、建築の仕事の影響もあるのか、物や空間を描いているものが多いものの、線と線の交差が少なくそれぞれが独立した線として存在し、ひとつの形をつくっている印象は今の作風に通じます。

「例えばコップが机の上に存在していたとして、コップと机の輪郭線が重なるところには、手前と奥といったような『間』があって、それぞれの周りにある目に見えない空気を感じるために線と線の間に隙間を空けて描いていました」

2011年12月に都内での初個展では、空間のスケッチではなく、風景を描いたものをはじめて展示されたそう。

「会社を辞めた年の秋に家族で山梨県の山中湖周辺を旅行したんです。これからどうやって生きていこうか不安だった時に、富士山を見て勇気をもらったんです。なんとか食べ物さえたべていれば生きていけるって、その雄大さに救われて、富士の絵を描きたいなと思い描きました。その絵を見たお客さんの表情がパッと明るくなった気がして、もっと絵を描きたい気持ちが湧いてきた。自分が感動した光景を絵にすることで、エネルギーの循環が起きた感覚がありました。絵を描いて生きていく、その道で生きていきたいという覚悟が決まりました」

その後、横の線だけで絵を描くようになったのは広島での個展の際にギャラリーのオーナーに無意識で線を引けたら作品をもってきてほしいといわれた一言でした。

「広島のギャラリーではじめて展示するときに、すごく素敵な空間だったので何を描いていいかわからなくて、とにかく頑張っていい絵を描きますね。と伝えたら、ギャラリーのオーナーに『shunshunさん、いい絵はいりません。shunshunさんが失敗したと思った絵とか、無意識で線が引けたと思ったらそのもの(作品)を持ってきてください』と。そこから無意識で線を引くにはどうしたら良いんだろうと、自問自答が始まりました」

「そのときに思い出したのは、子供の頃に見た蚕さんが、桑の葉っぱをむしゃむしゃと食べる仕草。体をくねらせながら上から食べていって、下までいくとまた上から食べる。その食べる仕草をボールペンで蚕さんの気持ちになって、やってみようと。一枚の紙の上で端からむしゃむしゃと食べている気持ちで点線を描きました。右端までいったらまた左端に戻って今度は2列目、そして3列目といった風に黙々と続けてみました。すると想像を超えた何かが現れて来た気がして。無意識になれたかも、という瞬間があったんです。蚕さんが教えてくれたんですね、無意識の感覚を。僕にとっては蚕さんが線の師匠です」

好きな景色

移住されて約13年。作品にも描かれている瀬戸内海の風景をスケッチブックを携えて一緒に巡りました。特にお気に入りと仰るのは竹原、忠海の白浜と尾道にある高見山からの風景。凪いだ瀬戸内の海としまなみの景色が美しく、包まれるような感覚が心を穏やかにしてくれます。

海の景色を描くときは写真で撮影することより、デッサンや自分が実際に目で見た印象を大切にされるといいます。

「新鮮な感動をどのようにしたら、再現できるかということを考え、自分の頭の中で探しながら描いています。写真のまま忠実に描いてしまうと現地で感じたイメージとは違ったものになってしまう。この場で感じている風や波の音、空気などの色々な要素が絵に加わっているので」

今のアトリエは海から少し離れたところに位置しており、いずれは海の見えるところにアトリエを構えたいと話すshunshunさん。海との物理的な距離が近くなったときに生み出される作品がどのように変化するのか今後も楽しみです。

展覧会に寄せて

今回の展覧会のタイトルは『prana』 
evam evaのブランド名のルーツとなるサンスクリット語に導かれshunshunさんが名付けたのは、同じサンスクリット語で「呼吸」や「気」、「生命力」を表す言葉です。

「空気中の目に見えない酸素を呼吸してわたしたちが活力を得ているように、絵からも目に見えない何かを受け取ることがあるような気がしていて、そういうpranaのようなものを、ギャラリーの空間に届けられたらいいなと思っています」

2022年の冬にはじめてevam eva yamanashi へ足を運んでくださったshunshunさん。その時に感じられた想いを取材後、文章にしたためてくださいました。

「透明な雨が降る中、門をくぐると、お寺や神社に一歩足を踏み入れたような静謐な空気を感じ、庭と調和するように配置された建物の屋根の美しい佇まいにも感銘を受けました。
ギャラリーは思った以上に大きい印象で、天井の高い白素な空間にいると心がフワッと伸び広がるようでした。ショップで「衣」に触れ、レストランで旬の「食」を味わい、慈しみ深い雨に包まれながら、ギャラリーで「美」を感じる豊かなひととき。まるで衣食住ならぬ衣食充。ここは美を充たす場所だと思いました。

この秋、evam eva yamanashiの森は美しく紅葉し、真っ白いギャラリーにはブルーブラックの静寂が漂うでしょう。
2024年2月に愛媛県美術館に展示された120号サイズ(1940×970mm)の瀬戸内海の絵も飾られます。山で海と出合う。どんな感覚を味わえるのか今から楽しみです」

水と光と空気。そのどれもが当たり前にそこに在るが故に日々意識を巡らすことは少ないかもしれません。shunshunさんの作品と対峙すると、自然の織り成す美しさに改めて気づくことができるのではないでしょうか。

evam eva yamanashi  exhibition
shunshun 個展
prana

日程|11月23日(土・祝)-12月16日(月)*水曜定休
日時|11:00-18:00 * 最終日17:00 close
在廊|11月23日(土), 24日(日),25日(月)
会場|evam eva yamanashi 形

詳細はウェブサイトをご覧ください。
https://evameva-yamanashi.jp

写真上
糸を水にくぐらせながら、ゆっくりと撚ったリネンのチュニックはコットンシルクのパンツと合わせて。季節を問わずお召しいただけるアイテムです。
E243T210  water linen tunic  ¥46,200
E243T008 cotton silk pants ¥28,600

写真下
冬の定番のカシミヤニット。上質でやわらかな風合いです。シンプルなカーディガンはさまざまな着重ねでお愉しみください。
E243C038  cut&sew pullover  ¥17,600
E243K134  cashmere cardigan ¥50,600

[素描家 ]shunshun
陽光が煌めくおだやかな海
夜空に瞬く優しい星々の光

心に響いた光景を
ブルーブラックのペン一本から
生まれる線により
一つひとつ精魂を込めて描く素描家

高知生まれの東京育ち
建築から絵の道に進む
広島在住

instagram|shunshunten

photographer:小室野乃華
高見山からの風景:evam eva

© kondo knit co.,ltd.