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interview|ハタノワタル|暮らしと美術、そのあわいに

和紙作家  ハタノワタル

季節が秋から冬へと移り変わる頃、2026年11月21日(土)より黒谷和紙作家ハタノワタルさんの個展がはじまります。

まだ梅雨も明けない初夏の頃、山々の連なりが美しい山間の地、京都綾部市へ。
水田には、この地で生まれ育ったコウノトリが飄々と佇み、昔ながらの田園風景が続いています。その穏やかな風景のなかに、新たな工房兼ギャラリーを構えたハタノさんを訪ねました。

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和紙との出会い

和紙職人としてキャリアをスタートしたハタノさんは、現在、紙漉キハタノの屋号で工房を営み、和紙を用いた工芸品や建築の内装、そして絵画の制作など、多岐にわたる活動を続けています。

その原点は、故郷の淡路島で17歳のときに見た風景にありました。

「淡路島の慶野松原によく行きました。海岸に沈む夕焼けを見てる時に、僕の前の親子も同じ景色をずっと見ている。夕日がそうであるように、世代を超えてみんなが美しいと思えるものはきっとあり、それを表現したいと思いました」

その後、美術大学に進学し油絵を専攻しますが、西洋のアカデミックな教育や技法を用い制作を行うことに徐々に疑問を感じるようになります。そんな時に出会ったのが和紙でした。

「友人が和紙を使おうっていうので、一緒に和紙屋さんに行って、大量の和紙の中から紙を選んだんです。その紙に絵を描いた瞬間に、すべてが繋がった感じ。日本の素材で、日本のものを表現するっていうのは、すごく真っ当かなって、そこからは和紙のほうへ一気に進みました」

絵を描く為の支持体として出会った和紙。油絵の麻布のキャンバスとは異なり、和紙は色を染み込ませたり、透かしたりと様々な表現ができることに魅力を感じたハタノさん。同時に時代の流れとともに、利便性や使いやすさを追求するあまりに伝統的な手漉きの仕事が失われていることに対しての強い危機感も覚えました。

「どんどん分断されていく世の中をなんとかしたいって思った時に、昔ながらの暮らしと仕事が一緒になったもの、地域と繋がった持続可能な仕事を目指そうと思い、和紙職人になろうと思いました。以前は、山登りやツーリングで日本全国を旅行していたんですよね。旅行していく中で、日本のどこに行っても暮らしがあるっていうことにすごい驚いて。僕自身も田舎出身なんだけど、もっと山深いところでも林業などを生業にちゃんと暮らしがある。そこで暮らしている人たちが何だかとても豊かな気がして、だからそういう暮らしと仕事をしたいと思ったんです」

日本には、全国各地に和紙の産地があります。その中でもハタノさんが選んだのは黒谷和紙。選んだきっかけについて伺いました。

「最初に友達と一緒に和紙屋さんに行った時に、絵を描きたいんで、強い和紙が欲しいですって伝えて紹介してくれたのが黒谷和紙だったんです。使い出すと、すごく素朴だし、すごく強いし、何やっても答えてくれるみたいな。日本の和紙は大体全部強いんですが、昔からの技法が残っているのが黒谷和紙。他の産地の和紙っていうのは少し現代風に改良されていて。黒谷和紙は純粋に楮だけで作ってて、そういう紙に憧れました」

黒谷では研修制度が整っており、2年の期間を経て、一人前の紙漉き職人となります。2000年に独立してからはひたすら和紙と向き合う日々。その日々はハタノさんが目指していた地域に根差した昔ながらの仕事の在り方でした。ただ職人としての収入は決して多くはなく、お子さんの成長とともに徐々にこのままでは立ち行かなくなると、今から約15年前に職人としての「畑野渡」から作家「ハタノワタル」としての活動をはじめます。

「一番最初は、実は内装の仕事から入って、自分で自宅を改装したんです。古い一軒家を借りて、そこを改装するっていう時に、和紙を使った。材料的にはそれが一番安いじゃないですか、僕が作ってる材料ですし。贅沢なんだけど、それで改装していると友人から貼ってほしいという依頼が増えて。そこからスタートしたんですよ」

今では紙漉き工房は13名のスタッフを要し、そして大学時代より取り組まれてきた絵画も発表を続け、活動の幅を広げていきました。

根底にあるのは持続可能であること。紙漉きの職人として歩んでこられたハタノさんだからこそ和紙の魅力を生かし、その先の使い方や表現の在り方を様々な方法で示し、対価を得て和紙に還元している。ハタノさんの活動が多岐にわたる所以がここに在りました。

田園に佇むギャラリー

新たに構えたギャラリーは、周囲に広がる田園風景と穏やかにつながりながら、外の景色とはまた異なる静けさを湛えています。

やわらかな光が差し込む室内には、ハタノさんの絵画をはじめ、さまざまな作家の工芸品がゆったりと配されています。和紙の質感を感じる壁面と、そこに置かれた作品が自然に調和し、空間全体がひとつの作品であるかのようにも感じられました。

「闇を作ろうと思って。闇と隣合わせを生きるとか、光と闇の間で暮らすみたいな」

天井中央の闇はその想いを落とし込んだ空間。重低音のような趣が柔らかくこの場所を支配しているようです。和紙を漉くことからはじまり、暮らしの道具や建築、そして絵画へ。素材の可能性を探り続けてきたハタノさんの仕事が、この場所に静かに息づいていました。

「日本も世界もそうかもしれないけど、合理的に進めすぎたんですよ。値段で物事が始まって、いかに効率よくということで、世の中がどんどん進んでいって、何か大事なものを全部忘れて。効率を重視するあまり、大事にしておきたいお客さんとの時間とかそういうのをすっ飛ばしてきた。
そういう大切なことを 1つの工房の中できちっと表現できたらなっていうのが、ここをスタートした理由。工房の一番大きくて光がはいるところで、お客さんのための場所を作ろうと。それが自分たちの想いだし、自分たちの表現を見てもらえる場所。そういうことをやったらどうなるのかなと。結果、それをやってよかったんです」

作品を思いのままに動かすことのできる空間。鑑賞するという行為だけではなく、ものがそこにあることで生まれる空気や、時間の流れを感じる。日々の暮らしの延長に美術があり、美術もまた暮らしとともにある、理想の形がそこにありました。

ものづくりの景色

現在は、スタッフに一任をしているという工房と畑にも立ち寄らせていただきました。以前は規模の小さいものでしたが、伝統的な紙漉きであるのに、楮は輸入に頼るという矛盾を打開するためにも自分たちで畑づくりを行い、現在では原料の4割ほどを賄っています。

光うけとめるアトリエ

そしてこの和紙を用いて制作するハタノさんの平面作品。北からの柔らかな光の入るアトリエには大小さまざまな作品があり同時進行で何枚もの作品を手掛けられていました。この時、制作されていたのは長年取り組まれている「積み重なったもの」の一連作品。和紙に顔料や土、藁などを混ぜて、地層のように積み重ねていきます。

重なりあう絵肌は、鑑賞者の心の動きを写し取るかのように、光を纏い美しい陰影を生み出す静謐な印象を持ち、またある時は素材そのものが剥き出しになった躍動的な印象を持ちます。

最近制作をされている、「光」シリーズ。アトリエの隣にあるギャラリーに掲げられていた一つの作品に引き寄せられました。

「4つの光なんで、混じり合っていろんな感じにしたかった。自分を忘れるような、時間を忘れるような作品を作ろうと思って。 
1つの要素だったら 1つだけ集中するじゃないですか。光が4つあることで結構ぼんやりとした感覚になるんです」

やわらかく光を分散し、混じりあいながらも曖昧な境界線を描く作品。その前に佇んでいると、時間の感覚が少しずつ遠のいていくようでした。

取材を終えお昼を過ぎたころ「おなかがすいたね」と、さっと土鍋でご飯を炊き、隣の畑で採れた野菜に塩とオイルで昼食をいただきました。大地の力をそのままに、飾り気なく一緒に食す。作家のひととなりに触れ、作品への愛おしさを感じるひとときでした。

和紙という素材を通して、暮らしと美術、自然と人のつながりを探り続けてきたハタノさん。

秋の澄んだ空の下、evam eva yamanashi のギャラリー空間にどのような景色が生まれるか。光を纏いやさしく鑑賞者を包むその場所を今から心待ちにしています。

ハタノワタル個展| 光

日程|11月21日(土)-12月13日(日)*水曜定休
日時|11:00-18:00 * 最終日17:00 close
在廊|11月21日(土)22日(日)
会場|evam eva yamanashi 形

詳細はウェブサイトをご覧ください。
https://evameva-yamanashi.jp

ハタノワタル  Wataru Hatano
多摩美術大学絵画科油画専攻卒業。在学中に和紙と出会い、2000年に黒谷和紙漉き師として独立。2018年、自宅に紙漉きの工房を立ち上げ、紙漉きから空間施工、プロダクト、アートを一貫して行う。2024年、紙漉キハタノを立ち上げる。

website | https://kamisukihatano.com/
instagram|hatanowataru

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